2010年5月 5日 (水)

風のガーデン第10話 ユーフォルビア

 貞美に死期が迫っていた。一方白鳥医院では貞三(緒形拳)とルイ(黒木メイサ)が貞美について話していた。貞美が家に帰ってきたら岳(神木隆之介)が使っている元貞美の部屋を提供し、父親が死んだと思っている岳には貞美を“大天使ガブリエル”と思わせたまま、さゆり(森上千絵)の住む旭川に預けることを決める。
 障害をもって生れてきたが故に岳は一度も父親の存在を知らされぬまま富良野を去ることになるのだろうか?私は岳がかわいそうでならない。それは彼が障害をもって生れてきたからではない。そのために周囲の人間たちが勝手に彼の人生を決めてしまっていることがである。そもそも親子の関係は頭で考えて理解できるようなものではない。現に親子の関係を頭で考えてしまった貞三は大きな過ちを犯してしまったのだ。私は岳が一番親子という関係を素直に受け入れられるのではないかとさえ考えている。天使の存在でさえ何の疑いも持たずに受け入れることができたのだから・・・貞三やルイは岳のことを思いやってのことには違いないのだが・・・
 ガーデンでは貞美が岳の花講義を聞いていたが、痛みに耐えかねキャンピングカーに駆け込んでいく。その姿を遠くから見つめていたルイとエリカ(石田えり)は場所を移し、これから貞美にどう接するべきかを話し合う。ルイが貞三から聞いた、娘とバージンロードを腕を組んで歩きたいという貞美の夢を話すとエリカが嘘の結婚式をあげようと提案する。あまりに唐突な提案に笑い出すルイだが、エリカは真剣だ。ふたりは修(平野勇樹)の元へ向かい、事情を話して1日だけと念を押しながら新郎役を頼むのだった。
 家に戻って貞三に成り行きを話し、挙式は9月3日にガーデンで行うことになった。これはいかにも無理のある設定である。貞美はルイと修のやりとりを既に目にしているのだし、妻子ある男とのことも貞美には話しているのだから、貞美が自分のための偽装だと気付かないはずはない。そんなことをすればルイも貞美の病気を知っていると告げているようなものだと思うのだが・・・生前葬といいこの偽装結婚式といい、人の善意から生じた失敗は多めに見ようという、いかにも倉本聰らしい発想だ。
 貞美は再三二神に手招きされる夢にうなされるようになっていた。そんな貞美を、訪ねてきた貞三が起こした。家に帰る件はもう少し考えさせて欲しいと言う貞美に、貞三は「実はお前に黙っていたことがある」と、ルイの結婚が近いことを話した。ルイは自分の病気のことを知っているのかと問う貞美に、貞三はまだ伝えてはいないと答えるのだった。またまた貞三の嘘が重なった。ルイとバージンロードを歩いて欲しいと頼まれ引き受ける貞美。そして結婚式後には家に戻ることも約束する。ここでは既に親子の関係が入れ替ってしまっているように私には思えた。それこそが真の親子の姿なのかもしれないのだが・・・さらに貞三は岳をしばらく旭川の上原ファームに行かせることにしたので「さりげなくあいつと別れてやってくれ」と貞美に頼むのだった。その理由を貞三はルイの結婚を岳に理解させるのには時間がかかるためだと答えている。相手のことを思いやるあまり、嘘に嘘を重ねてゆく貞三。彼は多分典型的な昔気質の日本の医者だからだろうと私は思っている。彼は患者に決して死の告知はしないにちがいない。
 翌朝、手作りのスープを運んできたルイは結婚しても自分は富良野に残ると貞美に話す。貞三の話とは明らかに矛盾すると貞美は直観したはずだ。さらに結婚式の衣装はエリカが担当することを聞いた貞美は、いぶかりながら小玉理容院を訪れる。ルイの結婚のことをいつから知っていたと問いただす貞美。ルイに頼まれて黙っていたと芝居をするエリカ。洋装か和装かと問う貞美。ウエディングドレスだと聞き、自分の衣裳も一緒に頼むと言う貞美。そんな時、店に流れていたラジオからヒット中の氷室茜(平原綾香)の歌う「カンパニュラの恋」が流れてきた。茜との別れの時にはおそらく自分がこの曲を耳にすることはないだろうと思っていた貞美は胸を熱くする。彼女の曲がヒットした喜び。ふたりで過ごした時間。そして死に行く自分。そうした様々な想いが貞美のこころに一機に去来していたに違いない。このドラマのエンディングに流れていた「ノクターン」の日本語バージョンが「カンパニュラの恋」だった。
 キャンピングカーに戻ってきた貞美は、水木に電話をして持続的硬膜外ブロックの処置を依頼する。貞美はルイの結婚式があること、そしてそれがルイや貞三による芝居であることを察知しているが騙されることにしたと水木に告げるのだった。
 そして、岳が旭川へ行く日がやってきた。いつになく不機嫌な様子の岳に貞美は事情を尋ねるのだが、岳は大人の都合で自分が急に旭川に行かされることになったと告げる。貞美も自分も天国に戻らなければならなくなったのだと岳に告げた。“大天使ガブリエル”との別れにパニックを起こした岳を貞美は懸命に追いかけて、強く抱きしめる。「大丈夫」と繰り返して岳をなだめる貞美。貞美の目からは涙が溢れていた。落ち着きを取り戻した岳に貞美は「母さんが好きだった乙女の祈り」を弾いてほしいと岳に頼むのだった。ピアノを弾きながら貞美の体から伝わったぬくもりを岳はどう受けとめたのだろう。
 さゆりとルイに連れられ、車で去っていく岳。ガーデンの脇の生垣に腰掛けて岳に手を振る貞美。これが父と子の永遠の別れになってしまうのだろうか?だとしたらあまりにも酷い別れではないだろうか。たとえいくら時間がかかったとしても岳にはきちんと説明をする責任が貞三にはあるはずである。貞三がいつまでも岳の面倒を見られるわけではないし、ルイもいずれは岳と離れて暮らさなければならない時が来るのだ。その時、彼に生きる力を与えるものがあるとすれば、あのたった一度の父親の抱擁かもしれないのだ。
 人生における時間とは個々に絶対的なものであって、ある人の1分を他の人の1年と単純に比較することはできないと私は考えている。その「刹那」が人の人生を大きく変えてしまうことがあるのだ。そして「天使の抱擁」か「父親の抱擁」かが岳の一生を大きく左右することがあるかもしれない。そう考えると私はたまらなく悲しい気持ちになる。本当に岳のことを考えるのなら事実を伝えるべきだと私は考えている。確かに、岳にとってはショックなことに違いないが、その苦しみを共に乗り越えて行くのが本当の家族というものではないのか。欧米人ならほとんどの人々がそう考えるに違いない。
 そこにこそ日本人的な美徳を見出す人もいるのだろうが、私はそれが人として正しいことだとはどうしても思えないのだ。日本には昔から子供は人間として扱われないという風習があった。そして、現代に至っても子供には充分な判断能力がないとして、15歳未満の臓器提供を禁じている。嘘をつくことは悪いことだと教えながら、そう教えている大人たちが平気で子供のためだと嘘をつき、何の罪悪感も抱いていない。それが日本というお国柄なのだ。
 日本には神のような絶対的な規範が希薄だ。そのため大人が勝手に決めた規範を子供たちに押し付けているような気がしてならない。子供もひとりの人間と考えれば、大人と同じ扱いをするべきであろう。大人は一方的に子供を守っている気になっているようだが、それは大人の勝手な思い込みだ。嘘で固められた社会のなかで子供を守れるはずなどないはずである。
 そして、ルイの結婚式の日になった―――。

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2008年12月13日 (土)

風のガーデン第9話 ラムズイヤー

 ラムズイヤーはシソ科の半耐寒性多年草です。ラムズイヤーの葉や茎はその名前(羊の耳)通り灰白色の毛で覆われています。6~7月にかけて、特徴のある形をした花穂に赤紫の小さな花を咲かせます。花はすぐ枯れてしまいますが、常緑のシルバーグリーンの葉はロマンティックな雰囲気を演出してくれます。貞三の花言葉は「生れたばかりの孫の耳たぶ」です。Lambs_ears01
 キャンピングカーで貞美(中井貴一)の病気を察知した貞三(緒形拳)は、それを確かめるために札幌の水木(布施博)のクリニックを訪れた。そして貞美が余命数カ月であることを知る。衝撃を受けた貞三は、苦悩と当惑の表情を浮かべたまま札幌の街を彷徨い、その足で義姉・春江(草笛光子)に会いに行く。思いを打ち明け、どうするべきか助言を求める貞三に春江はすぐに家に呼び戻すようにすすめる。
 在宅医療で多くの末期患者を看取ってきた貞三のような医者にとっても、我が子の死は別ものなのだろう。まして一度は勘当を言い渡した相手なのだから・・・彼の脳裡には様々な苦悩と後悔が渦巻いていたに違いない。
 ガーデンでは、岳(神木隆之介)が貞美に花の講義をしていた。岳が花を指さしては教えてくれる花言葉は父・貞三が作ったものだと知り、心動かされる貞美。それらはルイ(黒木メイサ)のこと、岳のこと、亡き妻・冴子のことをよみこんだ花言葉で、貞美のものはなかった。その後、森で1人エゾエンゴサクの球根掘りをしていた貞美の前に修(平野勇樹)が現れた。唐突に「ルイをオレにください!」と頭を下げる修に驚きつつも、本人に交渉しなさいとだけ告げる貞美。その一部始終を聞いた猛(ガッツ石松)は、修をボコボコに殴りつけ、貞三の元へ謝りに行くことになる。いかに芝居とはいえ、元世界チャンピオンのボクサーに殴られるのは、相当に怖いものなのだろうな・・・
 台風が接近してきた。強風が窓を激しくたたき始めた頃、貞三はルイを呼び、貞美が病気であることと和解することを告げるが、岳には貞美の正体を伏せておこうと言うのだった。父親が生きていることを知っているルイでさえ強いショックを受けるのだから、死んだことにされていた父親が生きて現われ、すぐにまた死んでしまうというのはいかにも酷なことかもしれない。しかし、父親を死んだことにしたのは貞三である。障害のあった岳のことを想ってのことだったのだろうが、親子の縁はそんなに簡単に切ったり繋いだりすべきものではないはずだと私には思えてならない。離れて暮らさなければならない事情に多少の嘘が混じることは止む終えないとしても、生きている者を死んだことにするというのは、あまりに非人間的ではないだろうか?もし貞三が岳の障害を言い訳にしたのなら、それは明らかに障害者に対する逆差別である。貞三は自らの行為を心から悔いていた。ならば、ルイ同様に岳にも真実を告げるべきだと思うのは私だけだろうか?
Takayuki_kamiki02  その後、ルイは家に岳がいないことに気付く。慌てて探しに行くと、岳は花を守ろうとガーデンで台風の中必死で作業をしていた。貞美に花の講義をしていた岳にルイはガーデンの花を守ることをきつく命じていたのだ。私には岳が姉に命じられたことを懸命にやり遂げようとしていただけではないように思えた。岳は貞美といる時間をルイに奪われたことを怒っていたように見えたからだ。岳は貞美が実の父だとは理解してはいないが、自分にとって特別で大切な存在だということは感じ取っていることは確かだと思っている。
 やがて、エリカ(石田えり)も貞美の病気のことを知る。生前葬を開いたことを悔やみ、動揺したエリカは貞美のキャンピングカーを訪れた。とりとめもない話をしていたエリカが急に話を止めた。その視線の先には貞三がいたのだった。驚きで動けない貞美。エリカが立ち去った後、貞美と貞三は数年ぶりに言葉を交わす。
 貞三はこれまで親子を引き離してしまったことを貞美に詫びた。その言葉に貞美もまた自分の情けなさを謝る。治療に少しは役に立てるかもしれないと家に戻ってくることをすすめる貞三に貞美は考えさせて欲しいと答える。そして長い沈黙の後、貞三から生きている間にやっておきたいことはと聞かれた貞美はルイとバージンロードを腕を組んで歩きたかったと静かに話すのだった。

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2008年12月 4日 (木)

風のガーデン第8話 フロックス

Fulox02  フロックスはハナシノブ科の植物の属のひとつで、現在67種が知られており、越冬性一年草のものと多年生植物のものがあります。フロックス属の花は5弁で、花色には濃淡の青・藤色・明るい赤・白などがあるようです。貞三の花言葉は「妖精たちの新盆の迎え火」です。Ezoengosaku03_2
 貞美(中井貴一)は、森でエゾエンゴサクの球根を掘っていた岳(神木隆之介)の前に姿を再び現す。貞美を怒らせてしまったのではないかと心を痛めていた岳は再会を喜んだ。岳と並んで球根堀りの作業をする貞美は、エゾエンゴサクがルイ(黒木メイサ)の好きな花だと聞いて、育て方を教わる。
 水木(布施博)から貞美に電話が入った。富良野の病院で事故に遭って運び込まれてきた患者の緊急手術を手伝ってほしいと言う。麻薬の影響が出始めていることを自覚している貞美は躊躇いをみせる。が、医師としての使命感からか水木の申し出を断り切れなかった。手術に立ち会った医師らは貞美の見事な施術に感謝し、緊急時だけでもいいから手を貸して欲しいと依頼する。だが、さすがの貞美も苦笑するしかなかったようだ。貞美はひどく疲労し、帰り道、運転中に激しい睡魔に襲われる。貞美が車を脇道に寄せ仮眠をとっていた頃、ルイはさゆり(森上千絵)にこれまでの貞美とのいきさつを話していた。
 後日、キャンピングカーにルイとさゆりがやってきた。貞三(緒形拳)に会いに行けないでいることを心配し、仲介役を申し出る2人の勢いに戸惑う貞美。すると、そこへ修(平野勇樹)が突然やってきた。貞美を見るなり自分はルイの婚約者だと言い出した修だが、貞美が父親だとわかると焦って逃げてしまう。この平野勇樹という新人は多分富良野塾の卒業生だろうが、なかなかいい味を出している。
Kiichi_nakai02  そんな折、エリカ(石田えり)らおさななじみの同級生たちが、歓迎会を開くと貞美を誘いだした。連れてこられたのは同級生が住職をしている寺で、歓迎会は、貞美の「生前葬」として企画されていた。喪服で集まった友人たちは、弔詞として貞美の昔の悪事を暴露していき、会は大いに盛り上がる。一同の前で挨拶をすることになり、故郷の大切さに思い至ったことを話しだす貞美。一緒になって笑っていた貞美だが、やがて熱いものがこみあげ頬に涙がつたう。同級生たちは貞美の病状を知らない。そんな同級生たちのやさしい無垢な笑顔を見つめながら、貞美は何を想っていたのだろう。「生前葬」とはいかにも倉本聰らしい奇抜なアイデアだが、貞美が置かれた状況を考えればあまりにも皮肉な設定だ。自分の病状を隠している貞美にとっては腹を立てることすらできない状況なのだ。
 貞美の頬をつたう涙には故郷への郷愁の念は勿論だが、彼がこれまでに一度も顧みることの無かった様々な想いが溢れていたのかもしれません。「30年近く富良野を離れ、故郷(ふるさと)というものを忘れておりました。故郷がこんなにも優しく、暖かく自分を迎えてくれるものだとううことを私は愚かにも忘れておりました。私は情けなく、あまりにも情けなく、泣けてまいります・・・」という貞美の言葉にそんな想いを感じてしまいました。
 往診を終え帰ってきた貞三は、自宅前で貞美が手術を手伝った病院の看護師と遭遇し、貞美の帰省を聞いた。「父さんが富良野に来てるんですか?返事をしなさい!」と厳しい表情でルイを問いただす貞三。無言で頷くルイに、貞三は「動作だけじゃなくて、言葉に出しなさい!人間はしゃべれる。それが動物との違いです」と叱責する。さらに「おじいちゃんはきちんとした人間に育ててきたつもりです。だから返事くらいきちんと言葉でしてほしいんです」と続けた。そして、自分もひとりの親として息子に会いたい。息子を勘当したことを後悔していると心中をルイに語るのだった。Ken_ogata05_2
 私はこの貞三の言葉に真の親子のあるべき姿を見た思いがしました。子供にあま過ぎる親にも問題を感じますが、ただ厳しいだけの親も同じだと思います。貞三のように叱る時にはしっかりと叱り、その理由もしっかりと伝えなければ、今の子供は納得しないはずです。大切なことは子供を叱ることではなく、叱る理由をきちんと子供に納得させることではないでしょうか?理由も分からず頭ごなしに怒鳴られたのでは、反感を感じるだけでしょう。ただ、叱らなければ子供はいつまでたっても、自分の欠点に気が付かないかもしれません。私は貞三の言動を見ていてそう強く感じました。今の時代は子供に対してもある程度の説明責任が求められているのではないでしょうか?
 貞美がキャンピングカーで暮らしていることを知った貞三は単身森へ向かう。そして、キャンピングカーに入ると、点滴を打ちながら熟睡している貞美の姿が目に飛び込んできた。散らばった麻薬パッチの箱や台紙、エコー写真を見て貞美の病気を察知した貞三は、激しく動揺しキャンピングカーを飛び出していった。息子を許し和解しようと決心をした矢先に息子が癌であることを知った貞三は札幌へ水木を尋ねるのだろう。そして、湖面にたつ漣のように貞美の病状が富良野の街に広がってゆく・・・

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2008年12月 2日 (火)

ドラマ・チームバチスタの栄光(16)

 後の白鳥の話によればケース27は緊急オペで、氷室にはスワン-ガンツカテーテルの準備をする時間がなかったことが明らかになります。つまりケース27の術死に氷室は関わっていないというのです。でも、これはちょっと不自然ではないでしょうか?そもそも機器の細工さえ終わっていればいいだけの話しで、そんな複雑な細工をオペの直前に行える訳がないはずです。問題はスワン-ガンツカテーテルの細工を誰がいつしたかではないでしょうか?当然、オペ前には機器の点検は行われるはずですが、機器を分解して内部まで調べることはないはずです。原作ではケース27は緑内障による視野狭窄で桐生のオペミスの可能性も示唆されていますが、それとても死後に解剖がなされていないため真相は闇の中です。
 「27」という氷室のダイイングメセージは術死の始まりを意味していたのではないでしょうか。つまり、何者かがスワン-ガンツカテーテルに細工をした最初のオペだということではないでしょうか?それを氷室は知らなかったとしたらどうでしょう。それに氷室が初めて気付いたのがケース33だったとしたら・・・そこで、氷室は真犯人は他にいると断言できたのだとしたら・・・推理の前提が全く違ってきてしまうのです。You_shirota02
 ここまでも繰り返し書いて来たことですが、オペ室での殺人は決して簡単ではありません。少なくともオペ中は執刀医・第一助手・第二助手という6つの目が常に患部を注視しているのですから、患部に何らかの細工をして患者を殺すことなどほぼ不可能だと私は考えています。これは原作を読んだ時から基本的には変っていません。原作を読んだ時は、注射器や薬物の壜を持っていても怪しまれないのは麻酔医だけで、看護師が注射をすることはあっても、あくまで医者の指示に従っての行為なので、そうでないものはすぐに分かるはずだと考えました。また薬物に一切触ることのない臨床工学士はすぐに除外できます。さらに、薬物にも患者にも全く触れることの無い病理医が犯人であるはずがないとも考えました。消去法では麻酔医しか残らなかったのです。そして、凶器もエピドラだと早々に気が付きました。ただ、エピドラをどのように使えば殺人が行えるのかが分からなかっただけでした。
 ところが、今回の殺人に関しては森博嗣も顔負けのメカ的な手段でした。従って、臨床工学士にもわずかながらその可能性は残ることになります。ただ、以前も書いたように臨床工学士が犯人という設定は庭師や家政婦が犯人だといっているようなもので、ミステリィではタブーのはずですし、そもそも専門の医師ではない人間に心筋のどの部分を焼き切れば心臓が再鼓動しなくなるかという正確な判断ができるはずがないのです。犯人はそうした高度な医学知識に加え、医療機器に関する専門知識も併せ持つ医者であることが絶対の条件になります。
Iryu14   『医龍』で当時まだ研修医だった伊集院に人工心肺装置の知識があったことを思い出して頂きたいと思います。コンピュータの知識同様、こうした医療機器に関しても若い医者の方により豊富な知識があるのではないでしょうか。例えば同じ助手であっても、谷垣よりは酒井の方に知識がありそうな気がします。さらに、前回の放映でちょっと気になることを思い出しました。それは酒井の事情聴取の場面ででした。彼の父親は優秀な心臓外科医とされているのです。酒井も当然のことながら幼い頃から英才教育を受けて育った可能性があるのです。そして酒井の父親が過去の経験などを息子に話していたとすれば、酒井がそこから殺人のヒントを得ていたことは考えられなくはありません。確かに自分でも悩んでいるように手技は並みですが、医学やメカ的な知識となると話しは違ってきます。Yumiko_shaku003m
 とにかくキーパーソンは大友直美です。彼女が誰と繋がっているのかが分かれば犯人の特定はできるはずなのですが・・・ちなみに原作では大友は酒井と結ばれることになっているのです。また、酒井は氷室と共同研究もしていて氷室の性格なども充分に知る機会もある立場にいるのです。氷室が無実だとすれば、スワン-ガンツカテーテルが凶器だと知った氷室はとっさに酒井を思い浮かべたことは充分に推測できます。さらに、氷室が大友と酒井の関係を知っていると仮定すると、大友に想いを寄せている氷室としてはそのことを大友に直接知らせたかったのではないでしょうか?ガラスの薔薇をめぐる彼の一連の言動にも氷室のそうした性格がうかがえたはずです。従って、氷室が大友に電話をしながら留守電に何のメッセージも残していないはずはないと考えています。メッセージには犯人の名前が残されていたことも充分に考えられます。
 氷室の性格を分析してみると、孤独で無口ではありますが、内に秘めた強い闘志があるようです。その闘志が捻じ曲がった攻撃性となって表出することがあるのかもしれません。そう考えると氷室の逃亡は自殺するためではなく、真犯人に対する復讐のためではなかったのでしょうか。患者を殺した恨みや憤りなら警察で自供し真犯人を逮捕させればいいわけです。彼がそうせずに逃亡し、真っ先に大友に電話をしたことを考えると、そこには何らかの私怨があるのではないでしょうか。氷室は恋しさが余っての憎しみを大友にぶつけようとしているのか、大友と繋がりのある犯人を憎んでいるのかはもう知る由もありませんが、氷室の知る真犯人が大友と繋がりがあることは間違いがないようです。
Au_w61t_b_01_1  氷室自殺説に傾いている警察では多分この犯人は見つけられないでしょう。スワン-ガンツカテーテル内部に羽場の指紋などが見つかると、捜査は全然別の方向に向かう可能性すらあります。ここまで計画的な犯行を実行している犯人が簡単に見つかる指紋などを残すはずはないのですから・・・もし、物的証拠があるとすれば大友が消した留守電メッセージの復元かもしれません。そんなことが現実に可能かどうかは分かりませんが、一度消されたPCのハードディスクの内容が復元できるのですから、無理な設定ではないと思います。ただ、酒井には反抗当時のアリバイがあります。しかし、大友直美と関係がありそうな医者は若い酒井か実力のある桐生しかいないはずなのですが・・・谷垣や鳴海医師ではどうにもイメージがわきません。
 真犯人が酒井だとすると氷室を突き落としたのは大友直美ということになってしまいます。桐生単独犯は考え難いのです。理由は執刀医には医療機器の知識はあってもそれに触れる機会は実際にほとんどないことです。まして、医療機器を持ち出したり戻したりするためにオペ室に出入りをするのは不自然極まりない行為と周囲には見えてしまうはずなのです。執刀医が患者を殺すのなら直接患者の患部からと考えるのが妥当でしょう。それでは自供以外犯行の証明ができず、ミステリィとしては最低の結末になってしまいます。その点、留守電メッセージの復元が可能なら最も意外性のある結末ということになると思うのですが・・・

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2008年12月 1日 (月)

ドラマ・チームバチスタの栄光(15)

 逃亡した氷室はとあるビルの屋上にいた。携帯の電源をONにして最初に電話をかけた相手は大友直美でした。大友はカンファレンス中で留守電に・・・問題は氷室がメッセージを吹き込んでいたかでしょう。大友はメッセージはなかったと証言しているようですが、真偽は定かではありません。
 田口は何度も氷室に電話をかけ続けていた。そして、この通話の直後にやっと氷室と話しをすることができたのです。田口は懸命に氷室を説得し氷室の居場所を聞き出すことに成功します。問題はその場所を口に出して復唱してしまったことでしょう。確かにこの段階では氷室が殺害されることは想定外だったのかもしれませんが、彼が真犯人を指摘する発言をしていたことを考えれば、そうした事態も想定しておくべきでした。そしてこのことが犯人の絞込みを益々難しいものにしてしまいました。田口は単身で行動し、その結果、氷室はビルの屋上から突き落とされてしまうのです。氷室が犯人ではなかったとすると彼の死で手がかりが全くなくなってしまったのです。
 ここで考えなければならないことは、当然ながら氷室の居場所を知っていた人間は誰かということになります。氷室を殺す動機のある者は犯人かその共犯者しか考えられないからです。氷室が大友の携帯にメッセージを残していれば彼女が真っ先に彼の居場所を知っていたことになり、それを第三者に伝えた可能性もあります。また、真犯人を庇うために自ら氷室を突き落としたのかもしれません。おそらく氷室は大友に直接会って話したいことがあったに違いないと推測できるのではないでしょうか。
 一方、田口が大学病院で居場所を口に出して復唱したことで、院内にいた誰かがそれを聞いてしまった可能性も残ってしまたのです。死亡推定時間に院内にいなかったのは3人。マンションに戻っていた大友、外で飲んでいた羽場、そして自宅に戻っていた酒井です。谷垣は単独ですが、桐生と鳴海は院内に一緒にいたと証言しています。でも、予告を見る限りどうもこれは偽証のようです。予告ではいかにも鳴海が犯人のように振舞っていましたが、『破線のマリス』ではありませんが、特定のシーンだけを切り貼りした映像は真実とは異なるイメージを視聴者に与えることになるものです。オペ中は薬物にも医療機器にも患者の体にも一切触れることの無い病理医が患者をオペ室で殺すことは超能力でも使わない限り不可能でしょう。
 実際に氷室が殺されたとなれば、当然真犯人がいることになります。ただ、5人の被害者のうちのどれが氷室の犯行なのかが分からないのです。ケース33にしても、スワン-ガンツカテーテル内部の指紋照合の結果が出ていないので氷室の犯行とは特定できていない状況なのです。仮に指紋が検出されたとしてもそれが犯人のものだと断定することもできないでしょう。ただ、田口との電話での会話の中で氷室は、自分が飼っていたハムスターが死んだ日の午後のオペで初めて人を殺したと言っています。氷室は患者を殺しているのかもしれませんが、それがどのケースに当たるのかが不明なのです。
 そして、氷室が犯人ではないとすると薔薇の殺人予告が不可解なものになってしまいます。ケース28と32で子供のバチスタは成功しています。それは、スワン-ガンツカテーテルを子供には使わないということで、初めて殺人予告となり得たのです。ケース27は大友が最初に置いたことがはっきりしているので、これは殺人の予告ではありません。では、ケース29では誰が薔薇を置いたのでしょう?薔薇を置いたのが氷室だと仮定するとハムスターが死んだ午後のオペがこのケース29になるはずです。するとケース30も31も当然氷室の犯行ということになります。ケース32は先の事情で除外され、ケース33も氷室の犯行ということになります。
 ところが氷室は全くの無実で、どうやら真犯人が他にいるようなのです。ケース33の凶器がスワン-ガンツカテーテルである以上、それを操作して殺人を実行できるのは氷室だけです。ただ、スワン-ガンツカテーテルの細工を別の人間が行い、氷室はそれを知らなかったということは考えられます。そこで氷室が残した「27」というダイイングメセージが重要な意味を持つことになるのです。

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2008年11月27日 (木)

風のガーデン第7話 サポナリア

 サポナリアはカスミソウによく似た姿で、きれいなピンク色の花を咲かせます。ガクの部分が大きく膨らんで五角形(星形)に角張っているのが特徴的です。Saponaria02
 貞美(中井貴一)を“大天使ガブリエル”だと思いこんでいる岳(神木隆之介)は、貞美の姿を見て逃げ出したルイ(黒木メイサ)を「ルイはとっても失礼だ」と責める。けれど、父は死んだと聞かされている岳に本当のことは言えずにいた。
 携帯電話の番号を変えるため町へ出た貞美は小玉理容室に寄り、エリカ(石田えり)に自分宛の郵便物の送り先とさせてほしいと頼んだ。エリカは、同級生たちと一緒に、貞美の歓迎会をするつもりだから絶対に参加するように話す。どうやら貞美は一度帰京して身の回りの整理を始めるつもりらしい。
 貞美のことが気になるルイは、修(平野勇樹)に同行を頼んで森の中の足跡をたどり貞美が暮らすキャンピングカーを見つけた。ドアをノックするが貞美は不在だった。その夜、ルイは森に付き合ってくれたお礼に修とバーに行く。舞い上がって「結婚しよう」と言い出した修の言葉を笑い飛ばすルイ。
 岳は貞三(緒形拳)にガブリエル天使を怒らせてしまったことを相談する。いつものように真剣に話を聞きながら、ルイを責める岳をなだめる貞三。ルイはそんな祖父貞三にもガブリエルが父親であることを隠していた。
Meisa_kuroki02  つかの間東京に戻った貞美は、妙子(伊藤蘭)に正式に病院を辞めることを告げると、必要な薬を富良野へ送ってほしいと頼む。そして、自分が死んだらおやじに渡して欲しいと一通の封筒を渡す。泣き出す妙子に富良野で息子のピアノでチェロを弾いた話を打ち明ける貞美。
 世間は不倫だ浮気だというけれど、人はひとりの人しか愛せないことはないはずで、同時に二人の人を愛してしまうことだって充分にあり得ることだと私は考えている。社会のルールが一夫一婦制になっているだけで、自分の妻や夫しか愛してはいけないという法律は無い。この二人を見ていると肉体関係が絶えた後も非常にいい関係でいることが分かる。「後のことは君たち夫婦に任せていいか?」と貞美が言っていたように、妙子の夫内山との友情も保たれている。通常であれば不倫していた女の夫に頼める話ではないはずなのだが・・・貞美という男の生き様を見ていると、一様に不倫は悪だとは言い切れなくなるような気がしている。
 貞美は姉・冬美(木内みどり)の家を訪ね、病院を辞めて富良野に帰ることを告げる。子供は何を喜ぶのかと相談する貞美に冬美は一緒にガーデンで働いてあげればいいと助言する。貞美は父親としての役割を忘れてしまうほど子供たちと長く離れていた。息子岳とは話しをしたり、一緒に楽器を奏でたりしながらも、親子という実感は持てないでいたのかもしれない。親だ子だと妙に構えてしまうから役割という厄介な問題に直面してしまう。何を語らずとも何もしなくても、ただ一緒にいることで互いに安心できる関係が、親子であり夫婦というものではなかろうか?
 富良野へ戻った貞美がキャンピングカーに荷物を運んでいると、ルイがやってきた。キャンピングカーに入ろうとするルイを制して、貞美はルイを近くの川原に誘う。森の中を少し離れて歩きながら、「今でも俺のことを恨んでいるか?」とルイに尋ねる。恨んだこともあるが、無性に会いたいと思うこともあると答えたルイに、貞美はこころから「ありがとう」と言う。Ken_ogata03
 自分が死んだことになっているのなら岳にはこのまま“ガブリエル”で通すこと、貞三は「決して自分を許さない」だろうから富良野に戻っていることを内緒にすること、さらにはルイの恋が終わったことなど、これまで離れていた時間を埋めるように話をする2人。ルイも辛い恋をした後だけに貞美の気持ちも少しは理解できるようになっていたようだ。「俺もこの夏は天使でいたい」という貞美の言葉がとても印象的だった。そして家に帰ったルイは、岳に翌朝ガーデンに行くようにすすめる。
 その頃貞三は三沢家で患者を看取ろうとしていた。以前、息子が強引に入院させようとしていた患者だった。しかし、その息子の姿は臨終の場にはなかった・・・産婆などというと笑われそうだが(今は助産師という)、私もそうだが以前は自宅での出産が当たり前だった。ところが近年は出産といえば病院でするものという感覚が当たり前になっている。人は病院で生れ病院で死ぬ。「ゆりかごから墓場」の始まりと終わりが病院のベッドの上というのが当たり前のような時代になってしまっている。果たしてこれが人として幸せな状況といえるのだろうか?病院のベッドで多くのチューブに繋がれて声を出すこともできない状況で死を迎えるのと、あの三沢老人のように何にも縛られること無く、妻や娘や孫たちと触れ合いながら旅立って行くのとでは随分と違うのではないか?それを見守る子供たちも人の死を充分に受け入れ易いのではないか?そんなことを改めて考えさせられるいいシーンだった。
 貞三は帰り際に葬儀の準備でやってきた貞美の同級生たちが富良野へ戻ってきた貞美の歓迎会を開くと話しているのを偶然耳にする。帰宅した貞三はルイにそれとなく尋ねようとして止めてしまう。予告では貞三が貞美のキャンピングカーに乗り込んで来るシーンがあったが、医者である貞三には貞美の病状は隠しようがないだろう。貞美は「あの人は決して許さないだろう」とルイに話していたが、死を目前にした息子を前にして貞三はどうするのだろう。死が全ての赦免になるとはいえないが、そこは親子のことである。『優しい時間』で親子のこころの雪解けを見事に見せてくれた倉本聰の手腕に期待している。

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2008年11月25日 (火)

ドラマ・チームバチスタの栄光(14)

 Aiに関しても原作では犯行の手段が特定できているので、白鳥は撮影部位まで特定しているのに対し、このドラマでは犯行の痕跡を見つけるのに相当苦心しているのです。つまり、この段階では犯行の手段が白鳥には特定できていないことがはっきりしたわけです。ロジカルモンスターの面影すら感じられないありさまでした。そのくせ、CTに映し出された小さな白い影を立体的に繋ぎ合わせて、凶器をスワン-ガンツカテーテルと特定している。こうした矛盾が徐々に増えてくると、何も無理に新たな犯人を設定しなくても・・・と思えてしまいます。Fig_cph06_031
 まあ、田口がガラスケースの薔薇の秘密を白鳥に告げてしなかったという伏線はあるにせよ、ロジカルモンスターとはほど遠い存在に思えてなりません。科警研での血液検査などロジカルモンスターなら自分のプライドにかけて絶対にやらないでしょう。血液に証拠を残すような間抜けな犯人ならとっくに馬脚を現していると私も考えていました。
 ともあれ犯人は捕まったわけですが、どうやら他にも犯人がいるらしいのです。そこで真犯人は・・・?ということになるようですが、原作にもあったようにAiの結果解剖されることが可能になったケース33以外証拠が一切ないのです。これが欧米であれば墓を掘り返すことも可能でしょうが、日本の場合はほとんどが火葬ですから・・・
You_shirota03  原作ではケース27は桐生のミス、ケース29は氷室のミス、実際の殺人はケース30、32、33の3件だけだと氷室は語っています。しかし、実際には警察で黙秘を続ける氷室はケース33でしか起訴はされない。それが現実でしょう。実際に解剖されたケース33以外には全く物的証拠がないのですから。それなのに他に犯人がいると言われても・・・いったいどうやって犯行を実証するというのでしょう?状況証拠と犯人の自白という結末だけはごめんです。残されているのは死亡した患者の血液と心筋の切除片だけです。そこに思わぬ結末があるというなら別ですが・・・
Yumiko_shaku05  大友看護師(釈由美子)の涙も不自然でしたが、氷室(城田優)の失踪も不自然です。両者の間には何らかの秘密があるようですが、恋の鞘当で医者が患者を殺すなんていう設定は陳腐過ぎるのでご勘弁願いたいものです。これからの見所は田口と白鳥が真犯人を特定できる物的証拠を発見できるかどうかにかかっています。犯人の自白で物語の結末を迎えるのだけは絶対に避けてもらいたいと願っています。
 私はこの血液に毒薬以外の薬物、あるいは人の体内にあっても不思議のないなんらかの化学物質が混入されていたという設定はどうだろうと考えています。例えば、本来無害であるはずの薬物や化学物質が、他のそれ自体は無害の薬品や化学物質が体内の他の物質と化学反応を起こして心臓を止める。そのくらいの知識のある人間が犯人でなければ面白みは半減してしまうでしょう。最初白鳥はそうした推測の元に血液検査を行ったのではないかと考えたほどでしたが、すっかり当てが外れてしまいました。ならば、切除した心筋を徹底的に調べるべきでしょう。鳴海のような優秀な病理医なら何かを見つけてくれるかもしれませんから・・・

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2008年11月24日 (月)

ドラマ・チームバチスタの栄光(13)

 いよいよ犯人が明らかになると期待していたら、なんと原作と同じ・・・フジTVでは犯人当てクイズも始めたようなので新犯人は他にいるようなのですが、少なくともケース33の殺人犯は氷室で間違いはないのです。
 確かにスワン-ガンツカテーテルが凶器に使われたことには驚きました。ただあの設定だとメカニカルな細工が必要になりますから、現実問題として麻酔医に可能なのかどうか判断に苦しむところです。さらに、子供には使用しないということでしたが、原作のエピドラと違い何故という説明が一切ないために、どうにもしっくりときませんでした。子供の場合、術中管理は何を使って行うのでしょう?医療監修にあの須磨先生がついているので間違いということはないと思いますが、もう少し説明が必要だったのではという気がしています。Sick11_4a
 スワンガンツカテーテルは肺動脈カテーテルのことで、ショックや心不全など重篤な患者に於いて、心機能を連続的に測定するために使用する医療器具です。エドワーズライフサイエンス社による商品名(発明者の名でもある)を取ってSwan-Ganz(スワン-ガンツ)カテーテルと呼ばれる事が多いようです。ただ、エピドラチューブを脳髄を深く挿入し薬物を投入するという原作と異なり、このメカニカルな仕掛けは物的証拠になるので、完全犯罪を目論む犯人としてはあまり懸命な選択とはいえないのではと思ってしまうのは私だけでしょうか?
Atsufumi_itoh01    それと白鳥の間抜けぶりにも唖然としてしまいました。白鳥圭輔には厚労省の医療過誤死関連中立的第三者機関設置推進準備室室長という肩書きがあります。その彼が素人の田口に求められてAiを思い出すというのは不自然としかいいようがありません。さらに、心臓を開いてみれば犯行の手口も犯人も特定できるという彼の思い込みもいかにも平凡過ぎて不自然です。彼はどんな死因を想定していたというのでしょう?谷垣講師が言っていたように、多くの目が注目している術野で何か細工をすることは不可能だということは白鳥も知っていなければ不自然です。勿論、原作の白鳥はそれが分かっているので、麻酔医の氷室を犯人と推測し、国会図書館に彼の医学論文を調べに行っている最中に緊急オペが始まり、患者を救うことができなかったというストーリーになっています。つまり、ケース33のオペ前に犯人も犯行の手口も分かっていたので、田口に「なんとしてもこのオペを止めろ!」と命じたのです。ところが、このドラマで白鳥は犯人や凶器の特定もできない状況でオペを止めていたことになる。たとえ、彼の到着が間に合っていても患者は救えなかったのです。これでは何のためにオペの中止を命じたのかわからなくなります。オペを中止すれば患者は間違いなく死ぬのですから・・・

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2008年11月20日 (木)

風のガーデン第6話 デルフィニウム(2)

 翌早朝、貞美はグリーンガーデンにいた。蛍の墓の前で手を合わせている貞美に「蛍を知っているんですか?」と不思議そうに問う岳。蛍がまだ子犬だった頃のことを語る貞美。そして「ハウスを見せてもらってもいいですか?」と貞美は岳に尋ねる。グリーンハウスに案内しハーブティーを入れ、「僕の家族を知ってますか?」「母に会ったことはありますか?」と問う岳に天国でおばあちゃんと仲良く花の手入れをしていると貞美は答える。そして岳から父も天国にいるのかと聞かれ、躊躇いながらも「もうじき来ますよ」と答える貞美。「それは何時ごろですか?」と問う岳に「多分今年の冬かそのくらいには・・・」と貞美は答える。「どうしてですか?」と問いを重ねる岳に「天国に入るにはいろいろと手続きがあって」と苦しい説明を強いられる貞美。それを理解してか知らずか「父をよろしくお願いします」と深々と頭を下げる岳に思わず胸が熱くなり涙を隠す貞美。そして岳が奏でる「乙女の祈り」を聞きながら涙を流す。Kiichi_nakai01
 この会話は普通の親子の会話ではない。むしろそれを超越しているように感じられた。それは子供と天使との会話だからというような単純なものではないような気がする。貞美は間違いなく父親だし、岳は障害を抱えてはいるが紛れもなく貞美の子供である。子供が父親の顔を知らないだけである。私たちは岳が目の前にいる天使が実は自分の父親だと知ったらどうするだろうとまず考えてしまう。それが普通の親子だからだ。では普通の親子とはどんな親子をいうのだろう?
 私はこのシーンを見ていて思い出したことがある。それは父の膝の上で読み聞かされたおとぎ話である。この親子は今そこへ時を遡っているのではなかろうか?貞美の膝の上に幼い岳がいて、父親から天国の話しを聞いているとすれば何の違和感もないはずである。倉本聰は『優しい時間』でも複雑な親子の関係を見事に描いていたが、ここにも「父と息子」の複雑な物語がある。何も明かされてはいないが、何故あれほど優しい貞美が岳を妻に託して東京で単身暮らしていたのだろう?そのことは理容店のエリカにも責められていた。だが、彼はそのことについては一切語ろうとはしなかった。
Eringium01  その日、貞美は誰もいなくなったガーデンをひとり散策していた。そして、ふと足を止めて見つめる花があった。私にはアザミのように見えたが、調べてみるとどうやらエリンジウムのようだ。エリンジウムはセリ科の多年草で、花言葉は「光を求める・秘めた愛・秘密の愛情・無言の愛・秘密の恋」ですが、貞三の花言葉は「大天使ガブリエルの贖罪」です。アザミに似ているなァと思っていたらエリンジウム・プラナムは別名マツカゼアザミとも呼ばれているそうです。貞美は父貞三の花言葉を思い出していたのでしょう。
  その後、不用意にも熊除けの防護柵に触れ気絶してしまう。夕立に降られ、やっとの思いでキャンピングカーに戻り眠っていた貞美の夢の中に、二神が現れ「先に行ってるぜ先生」と言う。すると妙子と二神の娘・香苗(国仲涼子)から二神の死亡を知らせるメールが入るのだった。ショックで呆然とする貞美。だが、理容店のエリカから電話が入り飲みに誘われるとあっさりそれに応じる。
 翌朝、グリーンハウスで、貞美がチェロを弾き、岳がピアノで伴奏を付けていると、音を聞きつけたルイ(黒木メイサ)がやってきた。貞美の姿に驚いたルイは駆け出し、車でガーデンを飛び出して行くのだった。同じような経験をしていたルイには貞美の気持ちも少しは理解できるようになっているはずである。そのルイが今後どのような行動をするのかに注目している。

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2008年11月19日 (水)

風のガーデン第6話 デルフィニウム(1)

 デルフィニウムというのは属名で,「イルカ」を意味します。これは、つぼみの形がイルカに似ていることに由来するようです。デルフィニウムはヨーロッパを中心として約250種が分布する多年草です。Derufiniumu01
 富良野に来ていた貞美(中井貴一)が早朝のガーデンを歩いていると、蜂場で手伝いを終えて戻ってきた岳(神木隆之介)と遭遇。父親は死んだと聞かされている岳は貞美を“大天使ガブリエル”と勘違いし、貞美もとっさにそれを肯定する。会ったことを内緒にしていればまた会えるという貞美の提案に素直にうなずく岳。岳はゲラニウム・ジョンソンズブルーの貞三の花言葉「大天使ガブリエルの哀しいあやまち」が気になって仕方がないようだ。大天使ガブリエルについては貞三の説明である程度理解はしているようだが、「哀しいあやまち」という部分が分からずにルイにまで尋ねていた。
Geraniumuzyonson  キャンピングカー暮らしに備え買出しに出た貞美は、週刊誌に掲載された二神(奥田瑛二)の写真を目にする。車椅子に乗り、憔悴した表情の二神。その写真を凍りついたように見つめつる貞美。帰りに高校時代につきあっていた小玉エリカ(石田えり)が営む理容店を訪ねた。30年ぶりの再会だ。懐かしい昔話に盛り上がる2人。二人の過去のエピソードはいかにも倉本聡らしいユーモラスな内容になっていた。病気のことを知らないエリカは、勘当されている貞美が、里心がついて帰郷したと思い、「困ったことがあったら助けてあげる」と告げる。30年前貞美は別れ話しを切り出した後、逃げるように立ち去りながら、心配になって戻って来たという。貞美という男はどうにも憎めない男のようである。こうした男は女の方がほうってはおかないのだろう。この優しさが彼に女性ばかりではなく悲運までも呼び寄せてしまったのかもしれない。
 岳は往診から帰ってきた貞三(緒形拳)にガブリエルに会ったことを告白する。ガブリエルが貞美とは知らない貞三は、約束を破ったからもう会えないかもしれないと心配する岳に2人だけの秘密にするから大丈夫だと安心させる。その頃、キャンピングカーで寝ていた貞美はうなされるように目を覚ました。直後、妙子(伊藤蘭)から二神の危篤を知らせるメールが入る。衝撃を受ける貞美。貞美は二神の死を見取るつもりでいたはずだ。今いる改造キャンピングカーも譲り受けたとは思っていないに違いない。貞美は二神の娘香苗の言葉に刺激され家族に会いたくてたまらなくなり、キャンピングカーを借りて富良野に来ていたのだろう。その二神が今死に瀕している。それも今夜が山だという。戻っても多分間に合わないだろうし、自分にできることは何も無い。そんな想いが貞美の中に去来していたのでは・・・

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2008年11月18日 (火)

ドラマ・チームバチスタの栄光(12)

Codeblue00_2   それにしてもオペのミスが怖くて殺人を犯す。桐生がそれほど医師としての名声に拘る度量の浅い人間には見えないのですが・・・ただ、重すぎる名声を抱えた人間の苦悩など私のような凡人に忖度できるはずもないのですが・・・確かにメスを置かなければならないということは外科医としての死を意味します。それは『コードブルー』の黒田の例を見るまでもないでしょう。ただ『チームバチスタの栄光』では鳴海という前例があります。桐生よりも腕が良く、将来を嘱望されていた医者がメスを置き、病理医としてみごとに再生を果たしているのです。さらに付け加えるなら、医師の役割は単に自分が患者を救うことだけではないはずです。Iryu2_1

 勿論、目の前の患者を救うことが第一義なのかもしれませんが、『医龍2』で鬼頭が繰り返し言っていた「10年後に1万人を救う」ことも医者の使命のひとつであるはずです。つまり、研究や後進の指導も医者としての重要な勤めだということです。鳴海のような鮮やかな転身は難しくても桐生なら充分にその役割が果たせるはずですし、現に原作で桐生はメスを置き、アメリカで後進の指導に当たる決意をするところで物語りは終わるのです。
Drkoto02  どうも『医龍』以後、フジTVの医療ドラマでは普通の医者、並みの医者が強調されているような気がしているのは私だけでしょうか?あのぼんやりでおっとり見えるDr.コトーでさえ、大学病院では外科のエースだったのですから・・・特に『コードブルー』ではそれを強く感じました。そして、このドラマでも田口公平がまさにそうした役を演じています。そして、ここにスポットライトを充てると桐生は当然影となる。桐生犯人説を取ると今後の医学の進歩にとって大きなマイナスになると私は考えています。まあまるきり検討ハズレになるかもしれませんが、とりあえず自分なりの犯人とその背景を推測してみました。私の推理はともかく、果たしてこのドラマの結末が論理破綻をしていないことを願うばかりです。

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ドラマ・チームバチスタの栄光(11)

Tsuyoshi_ihara01  消去法でいくなら犯人は桐生(伊原剛志)ということになります。ただ動機の設定が最も難しい犯人像ではあります。原作では「私は、自分の手術をパーフェクトと考えたことはありません。世界を見渡せば、上がいます。手術は論理の積み重ねです。切断できるところは切断する。切断できないところは、結紮(けっさつ)し切断する。組織を牝で切離し、適切な強さで縫合する。単純な作業の反復です。それだけのことですが、私はこれまで、心から満足する手術ができたことはまだありません。患者の命がかかっているのだから、そこを目指すのは当然です。私はパーフェクトではありませんが、パーフェクトを目指しています」と言い切ることのできる立派な医者として描かれています。このドラマでもケース31の術死の直後桐生は辞表まで書いていることになっています。そして、チームバチスタの調査に関しても桐生が依頼したことになっているのです。まあ、犯人自ら探偵に調査依頼をするケースもないわけではありかせんが・・・
 原作では壊れた医者の犯行というそれなりに納得できる動機がありました。最近のミステリィでは動機を重視しない作品も多くなりましたが、そこはドラマ。動機の無い犯行などといったら非難の投書の山でしょう。京極夏彦の小説にもあるように、動機は犯人のものではなく、その犯罪を受け入れる社会のためのものに過ぎないという考え方も成り立ちます。真の動機は犯人自身にしか分からないものですし、犯人が嘘を言っていてもそれを確かめる手段がないからです。周囲がよってたかって自分たちに都合の良い動機を見つけて安心するという側面もあるわけです。Yumiko_shaku03
 最近のミステリィ事情はともかくとして、仮に桐生を犯人とした場合、自分の名声を自分で貶めることをしていることになります。無理にこじつけるなら、桐生はメスを置きたいのに置かせてもらえない状況があるということでしょうか?やはり桐生は目に問題を抱えていて、いつミスをしてもおかしくない状況にあるとして、メスは置かなければならない、しかし、今や義弟の手となってオペをしている桐生にとっては、自分だけで決められる問題ではなくなっている。しかも、鳴海は「義弟さんには絶対にメスは置かせない」とまで断言しているのです。そして、看護師の大友(釈由美子)はなんとなく桐生の目の異常に気が付いている。彼女はなんとか桐生にオペを止めさせたくて怪文書や薔薇で警告を発している。そこには桐生に対する思慕の情が伺える。桐生は心を鬼にして犯罪を犯すが、どうしても子供だけは殺すことはできすにいた。多分、そんな筋書きになるのかもしれません。ただ、そうすると看護師が気付いていることに第一助手の酒井が気付いていないという矛盾が生じてしまいます。原作では白鳥がまず谷垣にそのことを確認しているのです。となると、怪文書や薔薇の警告は谷垣の仕業ということなのでしょうか?少なくとも怪文書や薔薇は犯人とは無関係だと私は考えています。

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2008年11月17日 (月)

ドラマ・チームバチスタの栄光(10)

 彼がアクティブ・フェーズを実施した相手の組み合わせに注目してみましょう。これは原作もドラマも同じになっていました。最初に酒井・大友ペア。次が氷室・羽場ペア。最後が桐生・鳴海義兄弟です。谷垣講師だけは単独で氷室・羽場ペアの後に行われています。7人ですから当然ペアにならないケースもあるわけです。白鳥の中では早々と谷垣犯人説は取り下げられています。これはもっぱら彼の腕によるもののようです。確かに桐生とは技量に雲泥の差がある外科医二人(谷垣と酒井)が束になっても桐生の目を誤魔化すなんてできっこないのですから・・・この二人がタッグを組むことはさらに考えずらい状況です。確かに谷垣には桐生に助教授の座を奪われたという過去があり、動機もあるわけですが、ならば26連勝などさせるはずがないのです。酒井に至っては論外で、第二助手が第一助手と執刀医の目を盗んでオペ中に何かを仕組むなんて想像もできません。仮に共犯がいたとしてもリアリティに欠けてしまいます。
 残るは2組です。白鳥の頭の中にあった絞込みとは多分このことだったはず。そして、桐生・鳴海義兄弟の聴き取り調査で二人のアメリカでの事件が明らかにされる。鳴海の手首の怪我は勿論桐生の緑内障までが明らかにされるのです。メスを置くように諭す白鳥の言葉にも耳をかさず、鳴海の協力が得られればオペはまだまだ可能だと強行に主張する桐生。ただ、このドラマでは桐生の目の異常についてはまだ全く触れらていません。
 ドラマではいかにも怪しそうに映し出されている鳴海医師ですが、27歳女性の乳がんの診断ひとつ見ても鳴海が犯人ではありえない。桐生の目がどうであろうと、あそこまで真摯に患者のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を配慮できる医師が殺人など犯すはずがない。『医龍』の藤吉が犯人だと言っているのと同じです。Pec_2
 麻酔医の氷室が犯人でないとすると、残るは3人。といっても看護師の大友は主犯にはなりえない。看護師に超一流の外科医の目を盗んで犯行を犯す知識や技能があるとは常識では考えられないからです。ただ、共犯というなら充分に考えられます。残りは二人、羽場と桐生です。外部犯行(術野の外側からの犯行)と内部犯行(術野の内側からの犯行)、どちらも可能ということです。ただ、「心停止液にアルコールなんかいれちゃったら」という白鳥の質問にうろたえている一介のコメディカル(臨床工学士)にそれだけの知識や才覚があるとも思えない。彼の犯行が可能だとすれば、白鳥も指摘しているように麻酔医と共犯関係にある場合だけです。まあ、麻酔医の氷室が見て見ぬふりをしているということも考えられなくはありませんが・・・このミステリィでコメディカルを犯人にするという設定は、推理小説で家政婦や庭師が犯人だといっているのに等しい行為だからです。
 コメディカル(co-medical(和製英語))は、医療従事者のうち医師や歯科医師以外の者を指し示す用語です。つまり看護師や臨床工学士のような医師免許を有しない医療スタッフのことです。勿論、臨床工学医師という医者もいるのですが、羽場はあくまでも臨床工学士なのです。衆人環視のオペ室の中で誰にも気付かれずに殺人をやってのけるにはそれなりの知識や技能が不可欠なのですから、少なくとも医師でなければ不可能なはずなのです。東野圭吾の『使命と魂のリミット』でも患者を術中死させるために人工心肺を利用するという設定はありましたが、あれは外部からリモートコントロール爆薬でオペ室への通電を止めるというメカニカルトリックで純粋な医療トリックではありませんでした。また、単純な毒物を使っての犯罪ではないことも科警研の検査で明らかにされています(これも原作にはないシーンです)。

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2008年11月14日 (金)

ドラマ・チームバチスタの栄光(9)

 ドラマもいよいよ佳境を迎えようとしています。予告では次の放送で犯人が特定されるようです。それは先にも書いたように死亡した患者にAiを実施すればある程度の死因は特定できますから当然といえば当然なのですが・・・
 第5話で白鳥と田口がオペ室見学をするシーンがありました。そこで白鳥が注目していたのは人工心肺のチューブ類とエピドラでした。「バチスタでもエピドラは使うの?」という白鳥の問いに氷室は「バチスタではエピドラは使いません」といい始める・・・ここに至って原作とは大きく乖離してしまいました。
Epidra03  『医龍』である程度の心臓手術に関する医学用語は覚えていましたが、エピドラチューブという言葉はこの小説で初めて知りました。小説内では主にエピドラと表現されていますが、エピドラとは一般的に「硬膜外麻酔」のことを言うそうです。通常の麻酔だけで対応できないオペや無痛分娩などに利用される麻酔法です。『医龍』では若い患者が多かったために、通常の麻酔だけですんでいたのかもしれません。ただ、『医龍2』で妊婦のバチスタの際に「硬膜外麻酔」が使用されています。また、最近新しく始まった『風のガーデン』でも「硬膜外ブロック」という言葉が頻繁に使われています。Epidra02
 「硬膜外麻酔」は「脊椎麻酔」同様に背骨のすきまから針をさして行う麻酔です。この麻酔単独では回りの様子が分かったり,声は聞こえますが,硬膜外腔という脊髄の外側の腔に細いチューブを入れ,そこから局所麻酔薬や鎮痛剤をいれますので,途中で麻酔が切れることはありません。全身麻酔が浅いために起きるバッキングなどを防止する効果もあるわけです。さらに,手術後もこのチューブを使用することにより,傷の痛みが軽くなりますので、主に無痛分娩に多く利用されているようです。高齢者や体力の落ちた大人の患者は全身麻酔だけでは身体の負担が大きくなりますので、全身麻酔と併用することが多いようです。これで大人にばかり術中死が続く理由が理解できることになるのですが、ドラマでエピドラは使わないというのですから、この説明(大人ばかりが術死になる)をどう処理するのかが楽しみです。
 原作者の海堂氏もインタビューの中で「僕も執筆中に、犯人候補はほかにいくつかあったんです」と語られているのです。勿論、犯人が違うということは殺害方法も異なることになります。チームバチスタのメンバーは七人。犯人である確率は7分の1、いや原作と違うということは原作の犯人は除外されますから6分の1、いやいや単独犯とは限らないので、3分の1ということも充分に考えられます。
 ただ、ドラマでは原作と異なり、ここまでのところ犯人を推測させるデータがほとんど提示されていません。怪文書とガラスケースに入った薔薇は殺人予告のようですが、必ずしも犯人が残した証拠とはいえないと思っています。それなのに白鳥は「犯人はかなり絞り込めました」と口にする。これがアクティブ・フェーズのためのはったりなのか、それとも実際に何か確証を得ているのかがはっきりしません。
 原作でも白鳥は同じことを口にしますが、その時はまだ彼自身ほとんど調査らしい調査をしていないのです。この時点で彼が知りえた情報はこれまでの田口の聴き取り調査の結果と、彼がアメリカで入手した桐生・鳴海義兄弟の秘密、そして全てのバチスタ手術のビデオ映像でした。そのデータをもとに白鳥はアクティブ・フェーズでさらに犯人の絞込みを開始することになるのです。

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2008年11月13日 (木)

風のガーデン第5話 カンパニュラ(2)

 ルイ(黒木メイサ)にひとめぼれした養蜂家の修(平野勇樹)が果敢にルイを誘うが、まったく相手にされないでいた。テンションの高い修に怯える岳(神木隆之介)だが、修はそんなことお構いなしだ。その夜、バーでは一方的に誘ったルイを待ち続ける修。その森のバーというのが、『優しい時間』の舞台となった「森の時計」。そしてそこのバーテンがあの『医龍2』で臨床工学士野村を演じていた中村靖日ではありませんか。眼鏡がないので最初はわかりませんでしたが、声で気付きました。そこでルイが来るかどうかで賭けをする二人。結局というかやっぱりというかルイは現れませんでした。ただ、この修という青年にはどこか憎めないところがあり、ルイの心がどう動くのかが楽しみです。Gentlytime07
 東京では、白鳥貞美が、たびたび襲ってくる痛みを麻薬パッチでごまかしながら仕事を続けていた。そこへ看護師長内山の夫が貞美を訪ねて来る。どうやら二人は親友らしい。親友の妻と浮気をするとは・・・しかも、妻と友人の関係を全く知らないかのような振る舞いに驚かされた。「亭主にしゃべったのか?」という貞美の問いかけに「だって、親友でしょう?」とかえす妙子。「これは天罰だ」と呟き、貞美を慕う妙子に「これ以上罪を重ねさせないでくれ」と泣き崩れる貞美・・・
 ある日、香苗(国仲涼子)に呼び出された貞美は、病院の駐車場へ。そこには二神のキャンピングカーがあった。車内は以前貞美が二神に聞かれて答えていた、治療に必要な医療器具の数々が搭載されていた。香苗は二神がその車を貞美に譲ると言っていると告げる。ほかにも急にお礼を言ったり泣き出したりする二神の異変に、何を告げたのかを貞美に問いただす香苗。
 その夜、帰宅した貞美は日本尊厳死協会の申込書を記入していた。日本尊厳死協会は、治る見込みのない病気にかかり、死期が迫ったときに「尊厳死の宣言書」(リビング・ウイル)を医師に提示して、人間らしく安らかに、自然な死をとげる権利を確立する運動を展開している団体で、日本尊厳死協会ではこのリビング・ウイルを発行しており、書面に署名・押印した入会希望者に会員証と原本証明済みのリビング・ウイルのコピーを渡す活動をしているようです。病院にリビング・ウイルの誓約書が常備されているアメリカとは大きな違いあるようです。
 日本では15歳未満の臓器提供や尊厳死に反対する声がまだまだ根強くあるようです。助かる命を助けようともせず、自らの意思で死を選ぶことも許されない国が民主国家を名乗る資格はないと考えています。日本人は元来死に対しては潔い民族だったはずです。武士の時代には「切腹」という習慣があったほどなのです。それが「神風」「特攻」といった形に変異し、どこかで捻じ曲がってしまったようです。他者のための死は美徳とされる一方で、脳死後の臓器提供は否定する。私は脳死はある意味「他者のための死」だと考えています。他者を生かす臓器があるのならそれは生かしてやるべきではないでしょうか?確かに人が神の領域に踏み込むという問題は残ります。では、溺れている人を見殺しにするのも人間なら、それを助けようとして死んでゆくのも人間なのです。それが人間が持つ意思(ウイル)なのです。
Ayaka_hirahara01  氷室茜(平原綾香)をデートに誘い出した貞美は、出張でしばらく会えなくなることを告げる。「カンパニュラの恋」のレコーディングがあるので、CDが出来上がったらすぐにでも聴いてもらおうと思っていたと無邪気に話す茜。しかし、茜が口にしていたようにこの曲がヒットして年末に巷で流れたとしても貞美は多分それを聴くことはないかもしれない。後半年、末期癌患者にとっては非常に厳しい時間なのだ。
 富良野では、修が凝りずにルイを誘いに来た。ルイは旭川に花の苗を取りに行って留守。修は岳を自分の養蜂場へ案内し働き蜂や女王蜂を見せる。そこで修はバーで来るまで毎日待っていると岳に伝言を頼み去っていく。帰ってきて岳から修の伝言を聞くルイだが、気に留める様子はない。そして、2人が働くグリーンハウス近くの森にはキャンピングカーがひっそりと止まっていた。

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2008年11月12日 (水)

風のガーデン第5話 カンパニュラ(1)

 貞三(緒形拳)は富良野で変わらず、患者の家を回って診療をする日々を送っていた。ある日貞三は在宅看護師に呼び出された。ある老患者の家では、長男が病院で治療を受けさせるべきだと訴えていたのだ。確かに助かる可能性のある患者ならそうするべきだろう。ただ、この患者は違っていた。病名は定かではないが、病院でも見放された患者のようだ。家族の反対意見に耳を貸さない長男に、貞三は患者が一番望んでいる家での治療の良さを説く。今の状態で病院に入れても機械に繋がれるだけで、本人も家族も苦しみが増すだけだ。苦しみとは単に病気に起因するものではなく、家族が触れ合えなくなることだと説く貞三。完全看護の病院では患者に触れることさえゆるされない。そして、自分はそうした治療法に疑問を感じて札幌の大きな病院を辞め在宅医療を始めたと貞三は語った。
 現在、日本における在宅死亡率はわずかに24%に過ぎないというデータがあります。家族に看取られて自然に逝きたいと願ってもなかなかそれが叶わないというのが実状のようです。また、お金さえあれば施設や病院に任せておいた方が楽だという考えもあるようです。日本人は世間体を気にするあまり、総じて死に関して不寛容ではないかと感じることがあります。植物状態であっても機械の力を借りれば人はその命を永らえることが可能になっていることを受けて、たとえ他人任せであっても患者を生かしておくとに意義を感じているようなケースを多く見かけるようになりました。逆に貧しい家庭では、その延命医療費に押し潰されるという事態もあるようです。機械の補助を受け呼吸をし、かろうじて心臓が動いているだけの状態を果たして生と呼べるのでしょうか?
 このドラマの二神同様私もそんな生は望まない。まよわず尊厳死を選びたいと考えています。尊厳死とは傷病により「不治かつ末期」になったときに、自分の意思で、死にゆく過程を引き延ばすだけに過ぎない延命措置をやめてもらい、人間としての尊厳を保ちながら死を迎えることです。日本人はこの「尊厳死」という考え方がなかなか受け入れられずにいるようです。私が日本人が死に関して不寛容だと感じる最大の理由がそこにあるのです。
 医療というのはある意味で自然の摂理に反する行為でもあります。何もしなければ死に行く人々を救うことが医療の使命です。昔であればまさに神の領域です。それが人の領域になり、人が人を生かすことを可能にしてしまった。その結果、人の寿命も人が決めなければならなくなってしまいました。ならば、医者の使命として患者にきちんと告知をした上で、その後の処置を患者と十分に話し合うべきだと私は考えています。既に欧米ではこうした考えが浸透し、リビング・ウィル(Living Will)が有効な手段となっているようですが、日本のように患者に病状を隠す傾向が続く限り「尊厳死」はありえないのです。事故などで病院に運ばれた時には既に植物状態という場合もあるでしょう。この場合は家族が患者の気持ちを忖度しなければならなくなります。そこで大切なことは世間体ではなく本人ならどうするかを忖度することです。本当の家族ならそれが分かるはずですし、それが真の家族というものではないでしょうか?貞三が訪れた患者の家族はそうした家族でした。遠く離れて暮らしている息子は家族の絆が希薄になってしまっていたのだと私は感じました。
 人の死期を決めることは大変な苦痛が伴います。誰もが自分中心にモノを考えて、機械によって生かされている患者の苦しみを考えようとはしません。勿論、本人には意識がないわけですから、苦痛など感じているはずもないと思うのは当然かもしれませんが・・・もしそれが自分だったら機械の補助無しで生きられない状態を果たして生と呼べるのかをもう一度考えていただきたいと思います。死を恐れるあまり無闇に死を遠ざけていては安らかな死は訪れることはないでしょう。貞三が語っていたように「死は誰もが必ず通る道」なのです。死を怖れず死としっかりと向き合えば自ずと道は見てくるはずです。癌に侵された白鳥貞美(中井貴一)はまさにそこにいるわけです。

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2008年11月11日 (火)

ドラマ・チームバチスタの栄光(8)

 原作に白鳥が登場するのはケース33の前で、このオペの前に全ての聴き取り調査(アクティブ・フェーズ)を終え、犯人を特定し、殺害方法まで調べ上げ、その上でこのオペを止めようとします。ところがケース33が緊急オペとして1日早く行われ、犯罪が重ねられてしまいます。白鳥は即座にAi(オートプシー・イメージング死亡時画像病理診断)を提案し、それは速やかに実行される。その結果犯行が露見し、犯人が逮捕されるというストーリー展開になっています。
 それに対し、今回のドラマでは先に記したようにケース31と32が入れ替っています。白鳥は最初から病院にいて直接事件を目撃しているのはケース31から。そして、ケース32から聴き取り調査を始め、ケース33をむかえることになります。ビデオテープの紛失はあったものの全てのビデオテープを見ているのだから、桐生の重大な秘密にも気付くずなのに、そのことについては聴き取り調査では一切触れていない。ということはこの設定も変えられていることになるのでしょうか?
Yumiko_shaku006m_2   原作ではケース33も術中死になるのですが、そうなれば白鳥は当然Aiを要求することになるはずです。そもそも、オペ室という密室で行われた殺人でも、一度解剖が行われてしまえば犯人はすぐに分かってしまう。ところがこれだけ不審死が続いているのに解剖が一度も行われていないのです。理由は簡単「オペで体を切り刻んだ挙句、死亡したからといって遺族に解剖など頼めない」というものです。そして、皮肉にも執刀医の桐生は患者や家族に絶大な信頼がある。誰も医療ミスだとは疑わない。この悪循環がこの事件を複雑なものにしているわけです。逆に考えると犯人は絶対に解剖が行われないという前提で犯行を重ねていることになります。これがこのミステリィにおける「盲点」です。そしてこの盲点を見抜きAiという方法で解決に導くのがロジカル・モンスター白鳥圭輔の役所なわけです。You_shirota01_2
 原作者の海堂尊氏はこのAiを広く世間に知らしめるためにこの小説を書いた感があります。というのも、その後出版された『死因不明社会』の中で改めて日本の病院における解剖率の低さとそれを改善するためにAiの導入の必要性を明確にしているのです。さらに週刊朝日のインタビューでも「自分が本当に書きたかったのは『死因不明社会』だった」と答えているでのす。
 当然のことながらAiが実施されれば死因が特定されます。そうすれば犯人は即座に分かってしまうことになるわけです。これではロジカル・モンスター白鳥圭輔が登場するまでもないでしょう。それともAiでも特定できないような殺害方法があるというのでしょうか?オペの順序を変え、桐生の重大な秘密を暴くことも無くドラマは進行しています。原作にはない怪文書、第4話の最後に挿入された大友看護師(釈由美子)と麻酔医氷室(城田優)の不可解な会話。ドラマは本当に原作に無い新たな結末を用意できるのでしょうか?

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2008年11月10日 (月)

ドラマ・チームバチスタの栄光(7)

 第4話はケース33が直前に迫ったところで終わりました。どうやらこのドラマでは原作とオペの順序が異なる設定にしてあります。フジTVのWebサイトには「手術リスト」が掲載されアガピ少年のオペはどうやらケース32に当たるようです。原作ではこのケース32は仁科裕美という67歳の女性のバチスタでした。このケースも術死になります。患者の名前こそ違いますが、ドラマではケース31と32が入れ替っていることになるわけです。
 最初、白鳥の登場が早すぎたために、ケース32にも白鳥が立ち会うことになってしまってどうするのだろうと思っていました。というのも実は原作で白鳥が登場するのはケース32の後なのです。原作ではこれが二度目のオペ見学となった田口は手術開始予定時間より随分早くオペ室に入ることが出来、そこで麻酔の氷室が患者に硬膜外麻酔(エピドラ)の準備をしている場面を偶然目にすることになります。外科音痴の田口は臨床工学士の羽場に「何しているんですか?」と問うシーンがあり、私はそこで犯人が分かってしまったのですが・・・ドラマではこのシーンがわざと飛ばされているようです。
 またドラマでは電話で桐生・鳴海兄弟の過去を問い合わせる設定でしたが、原作では3泊5日で渡米し秘書からではなく、恩師の教授から直接桐生と鳴海のアメリカでの状況を聴いている。その後、地下の視聴覚室に寝泊りして手術のビデオも全て見ている。第4話で取上げられた鳴海の手首の傷のことは勿論、桐生の隠された秘密も白鳥は知っていている。その上で、登場直後に「誰が犯人かについては、僕の中ではだいぶ絞込みが進んでいます。ただ、どうやって殺したのか、そのやり方がわかりません」と田口と高階院長に話しているのです。
 つまり、原作の白鳥は犯人をある程度絞り込んでいて、その選択肢を減らし最終的に犯人を特定するために聞き取り調査(アクティブ・フェーズ)に臨んでいることになっているのです。勿論、その前段として田口が先に全ての関係者の聴き取り調査(パッシブ・フェーズ)を一度終えているわけですが・・・先にも記したように、この『チームバチスタの栄光』は「犯人は分かっているのに、殺害方法がわからない」という「倒叙」仕立てになっている。ところが、ドラマではどうやら「倒叙」仕立てではないような雰囲気です。というのも桐生・鳴海コンビの聴き取り調査で桐生の重大な秘密が明らかにされていないからです。これでは犯人の絞込みができないのです。どうやらこのドラマでは全く別の犯人が設定されているようです。

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2008年11月 9日 (日)

風のガーデン第4話 ゲラニウム(2)

 翌日、列車で富良野へ向かう貞美。知り合いに会わないよう、顔を伏せてタクシーに乗り、妻・冴子の墓参りをする。久しぶりに見る富良野の風景。そしてルイが育てているガーデンを見に行く。隠れて岳(神木隆之介)の様子をうかがう貞美。そこで耳にする貞三の花言葉。Nijiiros
 新聞に二神達也(奥田瑛二)が検察の事情聴取を受けたとの記事が掲載された。あくまで黙秘を通したようだが、一部マスコミに居場所を知られ、写真まで取られてしまう。本来なら警備の不備を謝罪しなければならない院長(小野武彦)は貞美にその役を押し付ける。貞美は二神の病室を訪ねる。それも院長に依頼されたからではなく、あくまで留守中の事態に、二神の体調を心配してのものだった。そして、頼まれていたキャンピングカー用の医療装備リストを手渡しながら、この状態になってもなお動こうする二神に貞美はお金で命は買えないと説く。癌を宣告された患者の気持ちがわかるかと怒鳴り出した二神に貞美は自分も同じ病に侵されていることを打ち明ける。何故、仕事を続けているのかという二神の問いに、貞美は患者の苦しみを和らげることで、自分の傷みも和らぐような気がするからだと答え、自分は格好をつけて生きてきたので、これからもそうするだろうと二神に告げる。これが先に記した覚悟というものである。こうした男となら不倫をしたとしても相手の心の傷は浅くて済むものである。
Shimarisus  その夜、その不倫相手だった妙子(伊藤蘭)が貞美のマンションを訪れる。こうして度々貞美のマンションを訪れるところを見ると、妻の死に責任を感じた貞美が一方的に身を引いたのだろう。7年近い歳月が流れているというのに、妙子の気持ちは明らかに夫よりも貞美に向いている。麻薬パッチに気づいていた妙子は、貞美を問い詰め、貞美は病状について説明する。妙子はすぐその場で院長に電話をする。それを止めることもせず黙って見ている貞美。「強引だなあ」と口にする貞美だが、看護士長に知られてしまった以上、隠しておくことはできないという医者としての判断だったのだろう。翌朝、院長室にやってきた貞美は退職願を出し、医者として限界まで働かせて欲しいと頭を下げる。妙子はいつもと変わらない様子で仕事をこなす貞美を切ない思いで見つめていた。

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2008年11月 8日 (土)

ドラマ・チームバチスタの栄光(6)

 映画の影響か白鳥圭輔が最初から登場することに特に違和感はなく見ていましたが、改めて原作を読み返して見ると、白鳥が登場するのは小説の中盤、上下巻になった文庫版だと下巻からになっているのです。原作の前半部分は高階院長の特命を受け田口公平がひとりで調査をする描写に終始しています。と同時に田口公平という医者の学生時代のエピソードから神経内科医になってから不定愁訴外来開設の経緯などを通して半生が語られているのですが、このドラマではその部分がこれまでのところほとんどがカットされているようです。
 私が始めて原作を読んだ時、この「不定愁訴外来」という言葉がなかなか理解できずにいました。奥田英郎の『イン・ザ・プール』や『空中ブランコ』に代表される、いわゆる「伊良部シリーズ」の伊良部一郎もこの「不定愁訴外来」の医師なのですが、伊良部一郎は精神科の医師で、田口公平は神経内科の医師なのです。このことだけを見てもこの「不定愁訴外来」という耳慣れない言葉の難しさがお分かりいただけるのではと思います。
 原作のなかで海堂氏は「不定愁訴とは、軽微だが根強く患者として居座り続け、検査しても気質的な原因が見つからない些細な症状全般を指す」と説明しています。この定義に従うなら奥田英郎の「伊良部シリーズ」に出てくる「不定愁訴外来」とは少々意味合いが違っているのです。『チーム・バチスタの栄光』で描かれる「不定愁訴外来」は治療が終わっても病院に居座り続けようとする患者や医師とのコミュニケーション不足のためにクレームを訴える患者の受け皿のような役割になっているわけです。精神科のような気質的な問題は扱わないと田口医師自らが語っています。このドラマでも「愚痴外来」と呼ばれていますが、「相手にし始めたらきりがない」患者の愚痴を聴くところなのです。ただ、この「愚痴外来」にはもうひとつ別の意味があるのです。白鳥が田口医師を「グッチー」と呼んでいるように、「田口外来」を文字って、あるいは「グッチとシャネルの区別がつかない」ことを揶揄して名づけられたと原作には書かれています。ドラマでは犯人探しが主になっていてこの「不定愁訴外来」に関する説明がほとんどないようですが、「不定愁訴外来」開設の経緯は大切な医療問題を含んでいるので、回想の形でもいいので是非ドラマにも登場させてもらいたいと願っています。
 ただ、「不定愁訴外来」の歴史は田口公平という医師の半生そのものなので、田口医師の年齢が若く設定されている状況では難しいと思います。原作では田口公平の正確な年齢は41歳ということになっています。「医者になって15年」とか「今年は厄年だ」といった表現から推測することもできます。映画でもドラマでもこの部分はことごとく無視されているのが、私には大変残念な気がしてなりません。ドラマでは酒井と同期で30歳という設定です。Touru_nakamura01
 このドラマではたまたま足の怪我で病院にいた白鳥圭輔がそのまま田口の調査に加わるという設定になっています。これもドラマの演出のひとつなのでしょう。おそらくメインキャラクターである白鳥圭輔(仲村トオル)は早目に登場させないと視聴率が稼げないという局側の思惑があったのでしょう。そのために苦しい状況設定が余儀なくされているような気がしています。その一例がビデオテープの盗難や怪文書の登場です。
 原作を読まれた方ならケース29に重大な秘密が隠されていることは既に周知の事実でしょう。それを逆手に取っての演出だったのでしょう。ただ、結局は第二助手の酒井が自分の手術ミスを隠すためだったという、なんとも情けない結末になってしまっていました。この結末を用意するために酒井は天才外科医である元教授の息子という状況まで新たに設定されていたのです。酒井は自分の腕の無さ嘆いていましたが、原作では第一助手の垣谷雄次講師より腕がいい医師とされています。そうでなければいくら自分からチームに加わりたいと申し出たとしても桐生助教授が認めるとは思えないのですが・・・それを『医龍』の伊集院とイメージを重ねるような設定に無理やりしてしまったのは残念でなりません。『医龍』では苦しい過去を持つ松平という先輩医師のアドバイスだったからこそ重みもあり感動が得られたのですが、残念ながら若い伊藤淳史では柳の下にドジョウ二匹というわけにはいかなかったようです。そもそも田口という医者は人の話しを聴くことは得意でも、人の説得には全く向かない人物のはずなのです。だからこそアクティブな白鳥と絶妙のコンビになるのですから・・・

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